フードバンク仙台で農地運営を開始。「分配」を超える「食料への権利」を求める運動実践

仙台で餓死者を出さないため、農地運営をはじめました。
森 進生 2023.04.28
誰でも

 私がかかわるフードバンク仙台では、2023年4月から農地の運営を始めることになった。今回の記事では、寄付された食料を配るだけでなく、自ら食料を生産する活動を展開することにいたった経緯や狙いについて紹介する。

〇広がる「飢餓」

 フードバンク仙台は2020年5月の結成から2023年3月末までにのべ約2万1000人に総計約44万1000食の食料を無償で提供してきた。2022年度については、延べ3023世帯に約125000食の食料を提供。新型コロナウィルスの感染拡大の影響がまだ尾を引く中、物価高騰やエネルギー料金の高騰が加わり、食料支援を依頼する困窮はは後を絶たない。

 国連では、飢餓を「身長に対して妥当とされる最低限の体重を維持し、軽度の活動を行うのに必要なエネルギー(カロリー数)を摂取できていない状態」と定義している(国連食糧計画のHP)。相談の中には、「2日以上何も食べていない」「毎日1食は抜いている。他の食事も量を減らしている」といった声は多く、日本の困窮者たちはまさに国連の定義にあてはまる「飢餓」に陥っているといえるだろう。

〇量でなく質も問題

 生活困窮に陥る人たちの食事は量だけでなく質も問題となっている。
 低所得の労働者世帯は、炭水化物過多で塩分や人工の添加物の多い加工食品中心の食事に偏りがちとなっている。そのような食品の方が安く手に入り、またカロリーや糖分は高めとなっているため、エネルギーを補給するためには選ばれやすくなっているからだ。実際、ファストフードや清涼飲料水は安く手に入る。そのような食品を大量に摂取する中で、高血圧や糖尿病のリスクは大きく上がっている。
 また、子ども時代に貧困を経験すると将来の健康リスクはより増大する。幼少期の貧困によって機能が低下した身体は栄養をうまく代謝したり蓄えたりできないので、摂取した質の低い食品を体脂肪としてため込んでしまう危険が高く、肥満となってしまう子供は増加している。また記憶力や学力にも影響するという報告もある[i]
 私たちフードバンク団体や他の支援団体からの食料支援の多くも、日持ちがする食品を多く扱う中で、炭水化物やレトルト食品の提供に偏りがちとなってしまっているのが現状だ。野菜や生鮮食品はそもそも寄付される量が少なく、また日持ちしないものが多いため、大型の冷蔵庫もなく、また大規模に調理し保存するスペースなどもないフードバンク仙台のような団体では生鮮食品を大量に扱うことはできていない。まれに、農家からあまった野菜を提供してもらう、助成金の利用で購入することができるときに、生鮮食品を提供することがあるが、全体の食料支援の中では微々たるものだ。ゆえに、食の質については十分に支援できているとは言えない。

 こうしたことから、生活困窮者の多くは栄養失調や栄養の偏りがでてしまい、食生活に起因する不健康な状態や、高血圧、糖尿病などに罹患するリスクが高くなっていく状況に置かれてしまっている。

〇「飢餓」は人権侵害である

 日本の多くの人は認識していないかもしれないが、このような「飢餓」の広がりは人権侵害である。国際的には「食料への権利」は普遍的な人権として認められており、国連の世界人権宣言25条[1]や国際人権規約のA規約(社会権規約)11条[2]でも明記されている(日本も批准している)。ブラジルやインドのように「食料への権利」を憲法に取り入れた国も存在する。

 また、社会権規約委員会「一般的意見12号」には、「十分な食料への権利」について具体化されており、そこには十分な食料への物理的・経済的アクセスの確保が必要とされ、また栄養素の最低限をひとまとめにしたものと同一視する狭い制限的な意味で解釈されるべきではないとされている。つまり、食料に経済的・物理的にアクセスできること、食料の量や質が適切であるということも含まれた権利として規定されている。

参考:『食料主権のグランドデザイン―自由貿易に抗する日本と世界の新たな潮流 (シリーズ地域の再生)』(村田武 編著 農文協 2011) 第5章 国連「食料への権利」論と国際人権レジームの可能性

 つまり、量も質も問題となる人々が日本に数多く存在する現状は、多くの人々が「食料への権利」が侵害されている状況といえるだろう。「飢餓」が広がっているのは、いわゆる「発展途上国」や「グローバルサウス」と呼ばれる国だけの問題だけではない。

〇生存権闘争としての農地運営プロジェクトの開始

 そのような「飢餓」に対して、日本各地のフードバンク団体が食料支援を行ってきた。現在も物価高騰が続く中、フードバンク団体に寄せられる食料支援は全国的にも増加している。しかしその一方、食料の寄付は全体として減少傾向となっている。寄付だけに頼っている限り、食料支援は先細っていってしまう状況が到来している。国や自治体の支援がない中では、「飢餓」に陥る人たちは拡大する一方になるだろう。

参考:物価高 “困窮家庭への食料支援は限界に” フードバンク協議会(NHK 2022/10/29)

 そのような状況を受け、飢餓に陥る人たちの生存権を守るため、私たちフードバンク仙台は自らが生産者となって生活困窮者の「食への権利」を実現するプロジェクトをはじめた。仙台市内の農家から農地を借り、多くのボランティアらとともに畑を耕し、収穫を行い、困窮者支援に生かそうという取り組みだ。2023年4月から事業を開始し、手始めにはじゃがいもの栽培を始めた。収穫は6月から7月を見込んでおり、収穫したものは順次食料支援依頼者に配布するほか、収穫物を使った食堂運営や会食イベントに使用する予定だ。

〇「分配」では「食料への権利」を守れない

 農地運営という取り組みは、フードバンク運動の刷新にもつながる可能性を秘めていると考えている。

 これまでのフードバンク運動は「もったいないからありがとうへ」という言葉が象徴するように、何かしらの理由で余って捨てられる予定の食品(食品ロス)の寄付を受け付け、必要とされている人に「分配」を行ってきた。
 しかし、現状では物価高騰などの影響でその寄付が限界にきており、このままではフードバンクの運営が難しい危機的状況を迎えている。企業から寄付される食品などは「印字ミス」や「季節もの商品の余り」などなんらかの理由で売れなくなったものが中心であったが、管理方法が高度化していく中ではこのような食品の寄付は少なくなってきている。また、「食品ロスの削減」という実践がマクロ・ミクロに進んでいく中、そもそもロスとなる食品が減ってくる可能性もあるだろう。
 つまり、偶発性に左右される寄付だけでは、フードバンク運動は安定的な運営はできない。

 またそもそも、寄付で集まってくる食品の多くは「健康的ではない」という問題もある。寄付される食品はスーパーなどで普通に売られていたレトルト食品や即席麺、加工食品が多い。これらの食品は人工の添加物が多く含まれており、摂りすぎると健康を悪化させる食品も多いのが現状だ。
 当然、明らかに人体に危険と分かっているものがチェックもなく売られるわけではない。行政が毒性テストを行い、「安全」とされたものが食品に使われている。しかし、それは本当に「安全」とは言い切れない。厚生労働省ではネズミなどの動物を使って食品添加物の様々な毒性テストをし、使用量や使用対象の食品を決定している。しかし、ネズミと人間の消化能力は違う。あくまで「目安」でしかないのが実情だ。また、2種類以上の添加物を同時に取った場合や、30種類前後の添加物を同時に取った場合などの「複合接種」の問題は完全に盲点になっておりデータがないという。つまり、認可されているすべての添加物の安全性が完全に確認されているとは言えず、特に科学的に合成された添加物は危険性があるといわれている(清涼飲料水、菓子類、氷菓、洋酒、いちごシロップなどに使われることのある合成着色料の赤色2号、赤色2号アルミニウムレーキなどは多量摂取すると、発がん性の可能性があるとされ、アメリカでは使用が禁止されている)。
 なぜこのような危険性がある添加物が使われるかと言えば、それに「メリット」があるからだ。これらの添加物を使うことで、自然食品の代替ができるためコストを下げることができ、調理を簡単にする。そして保存を聞かせることができ長距離輸送などに耐えさせ、見た目をきれいにし、より「おいしそう」に見せることができる。そして実際、添加物を使って実際の「おいしさ」を出すことができた。この結果、売るためのコストを下げ、かつ消費者の購買意欲も高め、加工食品がより売れるようになり、さらに添加物が使われていくことになっていった。このような食品を数多く集めたとして、それは健康的とは言えないだろう。ゆえに、このような食品を集め配るだけでは、「食料への権利」が実現されることにはならないであろう。

参考:『食品の裏側』(安部 司 東洋経済新報社 2005)


 新型コロナウィルスの感染拡大や物価高騰・エネルギー料金の高騰といった中で、日本で「飢餓」が広がり生存権が侵害され「食料への権利」が侵害されている今こそ、新たな「食への権利」を目指す取り組みが重要になると考えている。

〇農地運営を通じたフードバンク運動の刷新。「分配」型運動を乗り越える挑戦

 フードバンク仙台は、食料支援を行いながら、生活困窮者たちの相談支援を行い、生活保護制度の利用をサポートしたり、連携する労働組合とともに労使交渉を通じた労働条件の改善=生活の向上を支援してきた。生活困窮者が食料へのアクセスができるようにするためである。そして、普遍的な社会保障制度の整備を通じた貧困の改善を求め、「ライフライン無償化プロジェクト」を立ち上げライフラインの負担軽減なども求めてきた。これは、上記の論点でいえば食料への経済的なアクセスを改善させるための取り組みと言えるだろう。

 そしてこの度、農地の運営をはじめることで、食の質をめぐる取り組みにも参画を始める。自ら生産者になることで「売るため」ではなく「健康に生きるため」の食べ物づくりの経験を積み、地域の人たちとも連携する中で、新しく「食」の在り方をめぐる取り組みを探っていきたい。作る野菜は可能ならば無農薬の有機栽培、少なくとも低農薬に挑戦する。健康で安全に寄与するための「使用価値」を中心とした食料生産と、必要に応じた食料の分配を行い、貧困を乗り越え、社会を再生する拠点となることを目指す。被支援者も参加可能な取り組みであり、支援⇔被支援を超えた関係性を作りだすこともできる。また、いずれは「地域食堂」の運営も実現し、食を通じた助け合い、地産地消の食の普及なども実現していきたい。無料または廉価で安定的に食料が手に入る環境が生まれれば、ブラック企業や非正規雇用労働者たちが無理して過酷に働かずとも暮らしていける可能性も生まれる。
 これらの取り組みが一つ一つ機能していけば、「分配」とは違う、新たな運動形態が生まれていくだろう。耕す農地はまだたったの5aであるが、今後拡大していき、寄付だけに頼らない形で食料を提供できるようになることを目指す予定である。

 以上に展開した実践は、まだまだ試行錯誤の段階である。今起きている飢餓をなくしていくため、多くの人たちがこのような実践に関わり、切磋琢磨する中で新しい社会が生まれていく。このような取り組みについて興味のある方はぜひフードバンク仙台に参加してもらいたい。また、同じような実践をする人たちとは、お互いの実践を持ち寄り議論をし、運動を発展させていければと思う。

[1]  第25条

 1 すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康

及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死

亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する。

[2]  第11条

 1 この規約の締約国は、自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内

容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者

の権利を認める。締約国は、この権利の実現を確保するために適当な措置をとり、この

ためには、自由な合意に基づく国際協力が極めて重要であることを認める。

[i] (出典:内閣府公式サイト 「 平成28年度 子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究 報告書 」)

無料で「森進生の仙台からはじめる反貧困運動記」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

読者限定
3.11東日本大震災と私。東日本大震災から12年目を迎えて
誰でも
フードバンク仙台を立ち上げた経緯と現場で見える社会の矛盾