フードバンク仙台を立ち上げた経緯と現場で見える社会の矛盾

フードバンク活動から始まる社会変革の実践を考えていきます。
森 進生 2023.03.04
誰でも

 私は、仙台で労働・貧困問題に取り組んでいるが、2020年よりフードバンク仙台の副代表としてフードバンク活動にも関わっている。現在の貧困拡大社会においては、フードバンクは多くの人の生存を支える拠点となると同時に、権利行使を支え、また新たな社会を作り上げていく拠点となる可能性を秘めていると考えるからである。今後、現場の体験、実践の経験から、フードバンク活動による社会変革の可能性を発信していきたい。
 初回である今回は、私の関わるフードバンク仙台の紹介と、フードバンク活動の現場でみられる、様々な課題についてを一部紹介する。

〇コロナ禍襲来。生活困窮に陥る労働者層の増大とフードバンク仙台の設立

 2020年に入ってから徐々に、そして全国へと広がった新型コロナウィルスの感染拡大。宮城県でも、2020年3~4月ごろより少しずつ感染が拡大しはじめ、緊急事態宣言も出された。その後、緊急事態宣言が解除される時期もあったが、2021年3月ごろには再度感染者数が急増し、人口10万人当たりの感染者数では全国1位になったこともあった。
 そのような情勢で生活困窮する方たちを支援するため、2020年5月にフードバンク仙台を立ち上げることになった。
 以前から、別のフードバンク団体に関わっていた小椋亘さんから、新しいフードバンク団体の立ち上げを相談されていた。小椋亘さんとは、私が2019年に仙台けやきユニオンの活動の一環で行っていた「大人食堂」を一緒に運営した仲間であり、当時はNPO法人ふうどばんく東北AGAINのスタッフをしていた。小椋さんが新しいフードバンクを仙台で立ち上げたいという希望があり、準備に協力しようとしていた中で、コロナ禍が広がり、コロナ禍で困窮していた方たちを「食」で支えるべきと考え、準備を急ピッチで進めることになった。その結果、多くの仲間の協力のもと、2020年5月に任意団体として活動を始めることになった。
 当初のフードバンク仙台の事務所(現在は移転している)は、小椋さんの伝手で無料で場所を貸与してもらうことができた。また、立ち上げ当初から数多くのボランティアが参加してくれた。多くの方たちの協力は大変ありがたかった。今のフードバンク仙台があるのも支えてくれた皆様のおかげであり、今も支えあいで成り立っていることを実感している。
 立ち上げたタイミングでメディアにも報道された結果、支援依頼が爆発的に寄せられ、2020年5月から2021年3月末までのあいだで、延3,318世帯(6,306名)の依頼者へ食糧支援を行った[1]。活動日の朝に支援依頼を確認し、ボランティアらと1週間分の食料を段ボールに詰めこみ、車を出してくれる配達ボランティアらが各世帯へ配達していった。毎日20件から30件の支援を行い、私自身も車で配達を行ったこともある。
 2021年度の支援数は増加し、延2,497世帯 (7,998名)[2]であった。2021年度の後半はコロナ禍だけでなく世界的なインフレ・物価高騰の影響も出始め、貧困の状況は悪化し、生活が改善に向かっている世帯は少なかった。2022年度もすでに多くの支援を行ってきており、2022年12月までで延べ2231世帯分の支援を行っている。

[1] フードバンク仙台HP 2020年度活動報告書

[2] フードバンク仙台HP 2021年度活動報告書

〇様々な矛盾と出会うフードバンクの現場
 フードバンク活動を行っていく中で、社会の様々な矛盾が見えてくる。特に顕著な2点を紹介する。

①生存権の危機
 立ち上げ以後、支援依頼が相次いでいる。コロナ禍、世界的な物価高騰が続いている影響もあり、事態は深刻だ。
 相談者の特徴としては、仕事をしている人が多いということだ。2022年4月から12月までのあいだの延べ相談件数2231件のうち、就業中または休業中の相談者は958件であり、全体の43%が仕事を持っていた。相談に来た時点で「失業」してしまっている人もいるが、多くは直前まで仕事をしていた人も多い。シングルマザーや「中高年非正規」などに代表されるような世間からも「生活困窮者」とみなされる人も多いが、夫婦と子どもや両親と一緒に住むなど家族で住んでいる世帯からの相談も目立ち、家のローンを支払っている世帯からの支援依頼もある。このような状況からは、働いていても貧困となるワーキングプアの問題が現れていると言えよう。
 特に最近はエネルギー料金の高騰によって苦しいという声が相次いでいる。その結果として、ライフラインの料金を滞納し、停止してしまっている世帯が増えてきている。具体的には下記の通りだ。
・ガスの停止世帯は215世帯、料金滞納世帯は約26%にあたる417世帯
・電気の停止世帯は57世帯、料金滞納世帯は約30%にあたる441世帯 
・水道の停止世帯は69世帯、料金滞納世帯は約21%にあたる349世帯
(2022年度4~12月の食料支援総世帯数2331世帯、複数回答、延べ人数)

 そして、相談者が困窮に陥る大きな要因は労働問題である。コロナ禍ではコロナを理由とした不当解雇や休業手当の未払いなどが相次いだ。コロナを理由とした事情以外にも、パワハラや長時間労働で体調を崩して働けなくなった人からの相談などが目立つ(具体的な相談内容や支援事例は別の記事で紹介する予定)。多くの人は「一時的」な利用としてフードバンクを使おうと考えるのだが、賃金が上がるわけでもなく、労働問題も解決されない状態の中で、生活困窮の要因が解決されず何度もフードバンクを利用することになっているのが実情だ。

 生活保護受給者からの相談も多い。フードバンク仙台はもともとは生活保護受給者を対象としておらず、主には働いている・失業している世帯で福祉制度につながっていない世帯を対象としていた。しかし、そのようなことを言っていられなくなるくらい、SOSが相次いだ。生活保護受給者が食料すら買えない状況に陥っているには個別世帯の事情で様々な理由がある一方、2021年ごろから増えてきたのは物価高騰・エネルギー料金高騰の影響で生活保護費が足りなくなっているということであった。現在の生活保護制度は、最低限度の生活すら守っていない現状が浮かび上がっている。それどころか、生活保護の窓口からフードバンクの利用を勧められたという生活保護受給者の依頼者も多い。行政が生存を守らず、民間に丸投げしている実態も垣間見えている。
 以上のような人たちが、「1日2食しか食べれていない」「3日ほど何も食べれていない」と相談を寄せているのがフードバンクで日々出会う現場である。慢性的に食べられていない人もおり、まさに「飢餓」に陥っている人も多い。生存権が危機に陥っている人がいるのは、なにもいわゆる「途上国」のことだけではない。ここ日本でも危機が広がっている。

②健康で安全な食料へアクセスできない
 フードバンクに寄付される食品は、企業から提供される食品の多くは何らかの理由で「売れなかった」食品である。普通に市場に出しても売れるものだが印字ミスなどで売ることができなかった食品などもあるが、普通に売っても売れ残ると思われる食品が提供されることも多い。これは困窮者に渡して役立つだろうか?と思われるものが提供されることも結構あるのだ。
 一番印象的だったのは、味付けされたチキンを作る「素」が大量に寄付されたことだ。鶏肉自体が買えない人や調理器具も十分に使えない人(ライフライン停止などが理由)がいる中、「素」だけを配布すること自体に困難を抱えた。ほかにも、アイドルとタイアップしたガムなども大量に来たことがある。「こんなものをもらってもどうすればいいかわからない」という声が寄せられたこともあった。このような食品は、企業の在庫の処分やイメージアップに貢献することはあっても、支援には役立たないことも多い。寄付をしてくれる企業が存在することはありがたいかもしれないが、企業側で発生するロスは実際の支援の必要性とは関係ない事情で発生しており、それをマッチングさせようとしても限界がある。
 また、寄付される食品の多くは、「主食」となるような乾麺やカップ麺、米が多い。レンジで調理するご飯や災害支援に使うような水だけで調理できるご飯もよく来る。これは実際に支援に大きく役立つのだが、その一方で「おかず」になるものが寄付されることは少ない。一定程度の賞味期限があるものを受け入れていることも影響はしているが、缶詰やレトルトカレーなどの寄付も少ない。結果、配る食料パッケージのほとんどがレトルトの、そして「主食」で埋め尽くされることになる。そうなると、栄養は大きく偏ることになるだろう。
 さらに、寄付された食品の裏面を見ると、多くの食品は食品添加物だらけである。例えばカップ麵は、塩分や添加物がとても多く含まれており、食べ過ぎると健康を悪化させることが一般にも知られている。手軽に食べられ、また保存もしやすく、寄付もしやすいからか、カップ麵の寄付は多い。ゆえに、今緊急で食料が必要な人にはカップ麵を提供することが多くなっているのが実情だ。健康に良い有機食品などはほとんどない。野菜などの生鮮食品の寄付も少ないため、渡すものは「1週間分のカロリーがとれるが健康には悪影響」なものになってしまうこともしばしばである。
 緊急的かつ一時的支援としては、このような食品の提供も必要になっている。しかし、食糧支援の依頼者は複数回の利用を求めてくることが多く、継続的にこのような食品で賄わなければならない状態になっている。この状態を続けたいとは思っていない。
 このような問題は、フードバンクの現場に限らない。食糧支援に訪れる人たちはほとんどがワーキングプアである。フードバンクに依頼がなくても、ここで紹介したような栄養の偏りがあり、不健康な食品を食べていることは想像に難くない。実際、利用者からはもらう食品は「カロリーがとれるものにしてほしい」という声もある。普段からそのようなことを考えているのだ。その利用者は40代の男性で、妻と子供を養っていた。それでも給料が足りず、子どもたちに食べさせるために自分たちの食費を削り、「できる限り安く、できる限りカロリーが多いもの」を買っていたという。特に本人はカップ麺や冷凍のチャーハンなどを食べていた。仕事をするうえで、カロリーをしっかりとることが大事だからと語っていた。
 このような状況は、生活困窮者には健康で安全な食へのアクセスが保障されていないといえるだろう。


〇社会課題に取り組むフードバンク活動
 今回の記事ではまずは2点を紹介したが、相談者が債務漬けになっている、困窮した「外国人労働者」向けに使える社会保障制度がない、ライフラインが停止し実質的にホームレスになっているなど、様々な課題・矛盾と出会う。食糧支援を行うだけでは解決できない社会課題ばかりだ。そのような矛盾と出会う現場だからこそ、そのような課題を乗り越え、社会を変えていく実践を生み出していく可能性が開いているといえる。
 例えば、上記の2点の課題に対する新しい実践として、農地運営のプロジェクトを開始する予定だ。これだけ貧困が拡大している状況に関わらず、困窮者に対する社会政策は不十分であり、賃上げもほとんどされていない。そのような状況ではまずは生存を支えるために食料を提供し続ける必要がある。しかし、寄付される食料を配布するだけでなく、自ら安全で健康的な食料を生産し、それを配布することを考えている。自ら生産を始めることで、一時的な飢えを救済するためだけではなく、私たちが食べているものの質(低い農薬基準、添加物の問題など)を問い、また農産物をコミュニティで生産することで生まれる共同性の拡大など、新たな社会の可能性を開くことを目指している。
 今後の記事では、取り組む社会課題と実践についてそれぞれ紹介していく。農地運営のプロジェクトについても記事を改めて紹介していく予定だ。内容についての感想などをお寄せいただければ幸いである。

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